■Index■

▼第1部 「人にやさしい経済」への胎動
第1回 21世紀の成長産業
第2回 市民風車
第3回 車椅子移送サービス
第4回 観光を通じた地域活性化
第5回 環境規格
第6回 エコマネー

▼第2部 「儲けない会社」の世界
第7回 4つの条件
第8回 形式より《想い》
第9回 公益のパートナー
第10回 非営利と収益(上)
第11回 非営利と収益(下)
第12回 青森県の現状

▼第3部 「働きがい」の復権
第13回 支える人びと
第14回 事務局長の仕事
第15回 保護から貢献へ
第16回 エゴを生かす仕掛け
第17回 育て市民起業家
第18回 緊急雇用対策

▼第4部 自立のための戦略
第19回 さまざまな資金源 (上)
第20回 さまざまな資金源 (下)
第21回 会費中心の運営
第22回 社会貢献カード
第23回 助成金を使いこなす
第24回 収益事業の設計
第25回 行政との協働
第26回 市民出資の可能性

▼第5部 社会の実験室として
第27回 設立時の検討項目
第28回 法人の形態を選ぶ
第29回 認証申請と法人化
第30回 「結い」の先進性
第31回 企業との共存
第32回 情報公開と情報戦略

 
■第5部 社会の実験室として■

第32回 情報公開と情報戦略

 4月から続けてきたこの連載も、今回が最終回です。連載については、多くの方からご意見や感想をいただきました。また、記事で紹介したNPOへの問い合わせが、掲載当日に寄せられるなど、新聞というメディアが持つ力を、改めて思い知らされました。

NPO「ブーム」の影で
 さて今回は、NPOの情報戦略について考えたいと思います。近年の情報技術の発達は、NPOが活動を進める上でも大いに役立っていますが、今回採り上げるのは、そうした便利な道具としての側面とは別の、情報の役割についてです。
 特定非営利活動促進法(NPO法)は、1998年12月に施行されました。現在までの5年間で、青森県では82団体、全国では約14000(10月末現在)のNPO法人が誕生しています。以前に5月末の法人数を紹介したときには、県内59、全国約11500でしたから、今年に入ってから法人設立は、ラッシュと言ってもよいほどの勢いです。
 その一方で、全国ニュースでは、NPOが暴力団の活動の隠れみのに使われたり、犯罪に係わったりする例も見受けられます。行政の干渉をなるべく少なくし、市民が自らの力で公益を実現するというNPO法の趣旨が、悪用されるようになってきたのです。

情報公開が健全なNPOを育てる
 だからといって、かつての公益法人のように所轄官庁の関与を厳しくし、市民による創意工夫の芽まで摘んでしまっては、元も子もありません。NPO法の精神を活かし、健全な活動を発展させるためには、情報公開が重要な役割を果たしています。


写真:NPO法人のホームページ。団体の活動についての情報を公開してゆくことは、
   NPOを市民がチェックする仕組みづくりの面からも重要だ。

 NPO法人には、前年度の事業報告・会計報告、役員名簿などを、所轄庁(都道府県または内閣府)に提出する義務があります。これらの書類は、請求すれば誰でも閲覧できます。会員や利害関係者から請求があったときにはいつでも見せられるよう、団体の事務所にも常備されています。活動についての情報を公開することによって、その団体が目標としている活動の実績が上がっているか、会計が適切に行われているかどうか、判断することができます。

NPOに必要な情報戦略
 また、NPOの側にとっても、情報公開は単なる義務として、仕方なく行うべきものではありません。この連載で何度か指摘したように、NPOは、人びとの共感から人材や資金を獲得することでしか存続できないからです。NPOにとって情報公開は、自分たちのミッション(社会的使命)や事業内容を世に問い、活動資源を獲得するのに不可欠な戦略です。
 こうして、良い団体にはより多くの支援が集まり、そうでない団体は市民の支持を失ってゆく。こうした市民の参加とチェックの仕組みが、NPO全体を活性化させます。市民の側には社会的に意義のある団体とそうでない団体とを見分ける眼を持つことが、NPOの側には、よりいっそう情報を公開し、活動を社会に開いてゆくことが、必要とされているのです。

(柏谷 至)


Copyright ©2003, NPO・コミュニティビジネス研究会