■Index■

▼第1部 「人にやさしい経済」への胎動
第1回 21世紀の成長産業
第2回 市民風車
第3回 車椅子移送サービス
第4回 観光を通じた地域活性化
第5回 環境規格
第6回 エコマネー

▼第2部 「儲けない会社」の世界
第7回 4つの条件
第8回 形式より《想い》
第9回 公益のパートナー
第10回 非営利と収益(上)
第11回 非営利と収益(下)
第12回 青森県の現状

▼第3部 「働きがい」の復権
第13回 支える人びと
第14回 事務局長の仕事
第15回 保護から貢献へ
第16回 エゴを生かす仕掛け
第17回 育て市民起業家
第18回 緊急雇用対策

▼第4部 自立のための戦略
第19回 さまざまな資金源 (上)
第20回 さまざまな資金源 (下)
第21回 会費中心の運営
第22回 社会貢献カード
第23回 助成金を使いこなす
第24回 収益事業の設計
第25回 行政との協働
第26回 市民出資の可能性

▼第5部 社会の実験室として
第27回 設立時の検討項目
第28回 法人の形態を選ぶ
第29回 認証申請と法人化
第30回 「結い」の先進性
第31回 企業との共存
第32回 情報公開と情報戦略

 
■第3部「働きがい」の復権■

第18回 緊急雇用対策

 前回、NPOによる人材育成と起業支援について紹介しました。今回は、国の行っている緊急雇用対策の事業を例に、NPOの教育力を生かした能力開発の課題について考えてみましょう。

緊急雇用対策事業へのNPOの取り組み
 長引く雇用不安に対処するため、国は1999年に「緊急地域雇用創出対策事業」を打ち出しました。国からの交付金を使って、地方自治体が事業を行い、失業中の方を雇用するというものです。
 この事業には、民間企業だけではなくNPOも委託先として係わりました。自治体の事業としてサービスの質を確保しつつ、雇用も生み出し、さらに次の就業へと結びつけるためには、NPOの教育力が有効だと考えられたからです。
 私たちあおもりNPOサポートセンター(ANPOS)も、この事業を受託してきました。第9回で紹介した「パソコン&インターネット初心者講座」のIT教師も、緊急雇用対策として雇用した人材です。


写真:IT教師のスタッフ研修の模様。緊急雇用対策の場合、事業終了後に向けたスキルアップが重要。

スキルアップを阻む制度上の制約
 しかし、本来の目的である能力発揮や就業のために、この制度がどれほど役に立っているのかというと、疑問が残ります。かつての失業対策事業のように、日銭を稼ぐ場としてしか使われていないことも多いのです。
 その理由のいくつかは、制度上の制約にあります。私たちにとっては、特に「新規雇用者の雇用期間は6ヶ月未満 (180日以内)」「一度雇用した人は次からは雇用できない」という条件が足かせになりました。
 IT教室の場合、パソコンの操作が出来るからといって、すぐに先生として授業が出来るわけではありません。研修を重ね、アシスタントとして講習を経験しながら、教師としてのスキルが徐々に身についてくるのです。
 ところが、やっと講習に慣れてきたかなという頃には、雇用契約が終了してしまいます。その後すぐに就業できるのであれば問題はありませんが、実際には雇用終了後も仕事に就けない方々がたくさんいます。雇用する側にとっても、条件に合致する方が、回を重ねるごとに少なくなってきています。

パートナーシップ構築への教訓として
 この他にも、委託内容が人件費中心で、研修プログラムや管理運営費用が出しにくいこと、現在在職中の人の雇用には厳しい制限があることなど、この制度がうまく働かない要因になっています。結局、2000億円の予算のうち300億円程度がNPOに委託されると予測されていましたが、実際には、全国で20億円程度にとどまっているようです。
※NPOが受託した緊急雇用対策事業の規模について、東奥日報紙面には誤って「全国で10億円程度」と書いてしまいました。上記の通りに訂正させていただきます。
 もちろん、私たちNPOの側にも、反省すべき点はたくさんあります。事業遂行と雇用者の能力開発とを両立させる研修内容の工夫、行政からの委託を待っているのではない、積極的な事業提案があれば、この制度はもっと活用できるはずです。
 せっかく作った制度も、それをうまく運用しなくては、政策としての効果は上がりません。NPOと行政とが対等な立場で公益を担う「パートナーシップ」の構築のためにも、貴重な教訓になりました。

(ANPOS理事・三澤 章)


もっと知りたい人のために (関連リンク)
緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について
緊急雇用対策事業が実施されることになった背景や、その方針について書かれた文書です。1999年に政府の産業構造転換・雇用対策本部で決定されました。

緊急地域雇用創出特別交付金(基金)事業のご案内
厚生労働省のページ。この制度の概要や、国が推奨する事業例などが紹介されています。

緊急雇用、NPOへの委託は計21億5千万円
シーズ (市民活動を支える制度をつくる会) のページから。情報源は、2001年11月に行われた民主党の公開ヒアリングです。

NPO自立・事業化プロジェクト
NPOサポートセンターのページ。緊急地域雇用特別交付金をはじめとして、NPOと行政との協働について、提言や情報提供を行っています。


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