■Index■

▼第1部 「人にやさしい経済」への胎動
第1回 21世紀の成長産業
第2回 市民風車
第3回 車椅子移送サービス
第4回 観光を通じた地域活性化
第5回 環境規格
第6回 エコマネー

▼第2部 「儲けない会社」の世界
第7回 4つの条件
第8回 形式より《想い》
第9回 公益のパートナー
第10回 非営利と収益(上)
第11回 非営利と収益(下)
第12回 青森県の現状

▼第3部 「働きがい」の復権
第13回 支える人びと
第14回 事務局長の仕事
第15回 保護から貢献へ
第16回 エゴを生かす仕掛け
第17回 育て市民起業家
第18回 緊急雇用対策

▼第4部 自立のための戦略
第19回 さまざまな資金源 (上)
第20回 さまざまな資金源 (下)
第21回 会費中心の運営
第22回 社会貢献カード
第23回 助成金を使いこなす
第24回 収益事業の設計
第25回 行政との協働
第26回 市民出資の可能性

▼第5部 社会の実験室として
第27回 設立時の検討項目
第28回 法人の形態を選ぶ
第29回 認証申請と法人化
第30回 「結い」の先進性
第31回 企業との共存
第32回 情報公開と情報戦略

 
■第5部 社会の実験室として■

第30回 「結い」の先進性

NPOは都市だけのものか?
 ここまで3回にわたって、NPOをつくるまでの手順を紹介してきました。今回は、「結い(ゆい)」をキーワードに、青森の風土を活かしたNPO活動の可能性について考えてみたいと思います。
 NPOという言葉が初めて登場した当時、「農山漁村ではNPOは広まらないのではないか」と考えるむきがありました。もともとアメリカに由来する言葉であり、「市民社会の創造」といった文脈で語られることも多かったからです。
 その結果、NPOは都市だけのものととらえられがちでした。しかし、実際にたくさんのNPOがつくられ、その考え方が浸透してくると、広い意味でのNPOは、農山漁村地域にも数多く存在していることに気づかされるのです。

コミュニティビジネスとしての「結い」
 法人格を取得している団体ではありませんが、大畑町の小目名という地区では、休耕になった田畑を老人たちが借り上げて山葵(わさび)を作っています。これを売って得た収入は、一部は働いた人の手間賃に、一部は小目名の神社と神楽の費用に充てられます。


写真:住民が知恵や労力を出し合い、地域を豊かにする「結い」の活動は、県内各地に残っている。

 農業を継ぐ者もおらず、年老いて耕し続けることも難しくなった田畑は、次第に放棄され荒れていきます。これは、過疎と高齢化に悩むむらでは、何処でも見られることです。小目名の特徴は、農村の環境保全や老人たちの働き甲斐、コミュニティの伝統の継承といった地域の課題を、特産物の生産・販売を通じて、同時に解決しようとしている点にあります。
 このような、お互いに知恵や労力を出し合ってコミュニティを豊かにしていく活動は、「結い」と呼ばれてきました。「結い」こそは、NPOという言葉が登場する遥か以前から、この列島に芽吹いていたNPOであり、コミュニティビジネスなのだ、と筆者は考えています。

地域社会の豊かさに新しい光を
 さて、こうした問題解決の鍵になっているのは、その土地に固有の風土や文化に気づくことです。地域全体を博物館にしようという「エコミュージアム」や、その土地の食文化を見つめなおす「土産土法」、地域の自然や文化をありのままに感じようとする「グリーンツーリズム」などの運動は、今まで当たり前すぎて気づかれなかった地域社会の豊かさに新たな光を当て、さらに育ててゆこうとしています。
 筆者が「結い」に注目するのは、これが地域固有の風土から生まれ、育まれてきた生活文化のひとつだからです。地域に根差したNPOである「結い」と、新たに登場してきたNPO支援の仕組み、例えば、活動してゆく上での悩みや解決策を共有できるネットワークや、第26回で見たようなNPOへの融資システム(コミュニティ・バンク)などとが、うまく組み合わせられれば、青森のNPOの裾野はもっと広がってゆくことでしょう。
 NPOとは、コミュニティを豊かにする人々の結びつきのことです。「結い」は地域に根ざした伝統でありながらも、社会の最先端を行くNPOなのです。

(斎藤博之)


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