■Index■

▼第1部 「人にやさしい経済」への胎動
第1回 21世紀の成長産業
第2回 市民風車
第3回 車椅子移送サービス
第4回 観光を通じた地域活性化
第5回 環境規格
第6回 エコマネー

▼第2部 「儲けない会社」の世界
第7回 4つの条件
第8回 形式より《想い》
第9回 公益のパートナー
第10回 非営利と収益(上)
第11回 非営利と収益(下)
第12回 青森県の現状

▼第3部 「働きがい」の復権
第13回 支える人びと
第14回 事務局長の仕事
第15回 保護から貢献へ
第16回 エゴを生かす仕掛け
第17回 育て市民起業家
第18回 緊急雇用対策

▼第4部 自立のための戦略
第19回 さまざまな資金源 (上)
第20回 さまざまな資金源 (下)
第21回 会費中心の運営
第22回 社会貢献カード
第23回 助成金を使いこなす
第24回 収益事業の設計
第25回 行政との協働
第26回 市民出資の可能性

▼第5部 社会の実験室として
第27回 設立時の検討項目
第28回 法人の形態を選ぶ
第29回 認証申請と法人化
第30回 「結い」の先進性
第31回 企業との共存
第32回 情報公開と情報戦略

 
■第5部 社会の実験室として■

第31回 企業との共存

車いす移送サービスと道路運送法
 先日、NPOなどによる高齢者・障害者の有料送迎サービスを、国土交通省が来年度から認める方針であると、一部の新聞で報道されました。今回はこのニュースを題材に、NPOと企業とがどのような関係を築くべきなのか考えます。
 本連載の第3回で紹介したように、車いす移送サービスは、高齢者や障害者が気軽に外出する手段として、県内各地で行われています。問題になっているのは道路運送法との関係です。乗客の安全確保などの観点から、タクシーなどの営業は許可制で、運転手には二種免許が必要と定められているからです。
 つまり、NPOが行う有料の移送サービスは、厳密には「白タク行為」と見なされ、「違法だが取り締まりはしない」と扱われてきたのです。今回報道された方針は、一定の条件の下で、非営利だが有料のサービスを認めるものです。

営利企業とのすみ分けを
 ここでの論点は2つあります。ひとつは、NPOによる移送サービスが企業の営業活動を阻害しているのではないか、という問題です。タクシーの運転手には二種免許の取得が義務づけられるのに対し、NPOだけを特別扱いするのは、公正な競争を阻害するのではないか。タクシー業界はそう主張してきました。
 しかし、現在NPOが行っているサービスを、企業が行うには無理があります。もしも、移送サービスを行うことのできるのがタクシー会社に限られるとしたら、多くの高齢者・障害者は、外出そのものを諦めてしまうでしょう。
 こう考えると、単純に、NPOがタクシー会社の顧客を奪っている訳でないことが分かります。むしろ、NPOは、積極的に外出する高齢者・障害者という、新たな顧客を創りだしているのです。NPOとタクシー業界との間に必要なのは、競合ではなくて「すみ分け」であると言えます。

安全なサービス提供では共通
 もうひとつの論点は、利用者の安全をどのようにして確保するかです。NPOだから安全に配慮しなくてよい、ということはありません。二種免許に代わる安全確保の方法が必要になります。


写真:東京で行われた講習会には、全国の移送サービスNPOからスタッフが集まり、
   安全で快適なサービスの提供法を学んでいる。

 この問題に対するNPO側の回答は、運転講習を自主的に開催することにより、サービスの安全性を高めてゆくというものです。現在でも、全国の移送サービスNPOが連絡組織をつくり、スタッフに対する運転講習を行っています。来年1月には、青森市を会場に、雪道運転についての講習も予定されているとのことです。将来は、この講習を義務化することも提案されています。
 より良いサービスと責任ある運営を追求する点では同じでも、NPOと企業には、公益の実現と営利追求という違いがあります。両者には、競合よりも共存できる余地の方が、むしろ大きいように思えます。

(柏谷 至)


※NPO青森リフトカーサービスでは、「車イス駐車場に止めません」キャンペーンとして、自分の車にステッカーを貼ってくれる人を募集しています。詳しくは、キャンペーン事務局017-763-1660まで。
Copyright ©2003, NPO・コミュニティビジネス研究会