第3回　車椅子移送サービス

　前回、NPOが行う経済活動は「社会的使命」と「採算性・効率性」を同時に追求する、と書きました。今回は、福祉分野での事業型NPOの例として、NPO法人「青森車椅子移送サービスセンター」(NPO青森リフトカーサービス) を紹介しましょう。

車いすの人が気軽に出歩ける社会を
　身体的な障害や高齢のために、車椅子での生活を送っている人たちは、外出する際の交通手段が大きく制限されます。積雪が多い青森県では、問題は特に深刻です。
　青森リフトカーサービスは、車椅子で生活する人が気軽に出歩ける社会を目指して設立されました。現在は、車椅子のまま乗車できる電動リフト付のワゴン車1台を使って、青森市を中心にした、有料の送迎サービスを行っています。
　同様の移送サービスは、タクシー会社などの営利企業でも行われています。また、いくつかの地方自治体が、社会福祉協議会などに委託して実施する例もたくさんあります。
　しかし、企業の移送サービスは、料金が高く、対応できる車両や職員も少ないのが現状です。行政の場合には、利用時間や用途に制限があります。

写真：移送サービスの模様。日本財団の支援を得て購入したリフトカーを使い、
　　　映画やコンサートなどにも、気軽に出かけることができる。

安くて使い勝手のよい移送サービス
　そこで、このNPOは、料金が安く、時間・用途も限定されない移送事業を展開しています。
　サービスを利用する人は、まず入会金3,000円、年会費5,000円で同法人の会員になります。そして、利用一回ごとに200円と、利用距離・時間に応じた追加料金を支払います (1�q50円、30分500円)。この料金だと、営利企業の場合 (1回あたり約5,000円) よりも、かなり安くすみます。
　行政のサービスとは違い、予約があれば24時間いつでも、どこへでも対応します。また、同じような移送サービスを行うNPOが県内に7団体、全国には300団体以上あり、相互に連携して、長距離の移動も可能です。
　こうして、青森リフトカーサービスは、設立から2年間で約2,300件の移送実績を上げました。これに対し、同じ期間に青森市が委託した事業は、低料金にもかかわらず、2台で約1,400件でした。この差は、小回りが利き、生活者の感覚が生かせるNPOのサービスが、利用者の心をつかんだ結果だと思います。

意識改革も含んだ「コミュニティビジネス」
　さらに、この団体は、キャンペーンや自主企画を通じてニーズを掘り起こし、新規利用者の開拓を図っています。同時に、こうした活動は、車椅子で生活する人が「あたりまえに」外出する社会に向けた、意識改革の試みにもなっているのです。
　車椅子移送サービスのように、社会的使命を意識した小規模な収益事業は、「コミュニティビジネス」とも呼ばれます。
　青森リフトカーサービスの活動は、青森県におけるコミュニティビジネスの先駆けのひとつと言えるでしょう。

（小山内 誠）

さわやかネット
八戸市を中心に活動しているNPO。リフトカーによる車椅子の方の移送サービスを中心に、障害者・高齢者の生活支援のための活動を行っています。E-mail: sawayaka@hi-net.ne.jp

NPO弘前移送センター
弘前市を中心に活動しているNPO。車椅子の方をリフトカーで移送するサービスのほか、障害者向けのダイビング体験なども行っています。E-mail: npo.hirosaki@k3dion.ne.jp