笑楽生(えがお)

五所川原市で福祉有償運送事業、放課後等デイサービスなどを行ない、健常者と障害者がともに笑い楽しく生活できるように、ノーマライゼーション(*)の具現化を目指すことを目的として活動しています。代表の泉谷和宏さんにお話を伺いました。

*ノーマライゼーション・・・障害をもつ人ともたない人が平等に生活する社会を実現させる考え方。

-認定NPO法人笑楽生はどういった活動をされているのでしょうか。-

最初に行ったのは福祉有償運送事業で、自宅から森田養護学校に通う子ども達のために立ち上げました。私の次女が障害をもっておりまして、森田養護学校に送迎していたわけですが、自宅から通えない子ども達が寝泊まりしている森田学園(障害児入所施設)の子どもが毎朝窓から顔を出し「えりかのお父さん、おはよう。」と挨拶するのです。その子がある日こう言いました。「僕も金木から来ているんだよな。一緒に乗って帰りたいな。」その言葉を聞いたことがきっかけで福祉有償運送事業を始めました。

 

 

 

 

 

-娘さんが森田養護学校を卒業された今も続けていらっしゃるということは、自分の娘さんのためだけではなく、他のお子さんも同じように、という思いだったのでしょうね。-

そうですね。一度子ども達と契約(約束)したからには卒業するまで裏切ることはできませんから今も継続してやっています。中泊やその周辺まで迎えに行っていますので、夏場だと片道約1時間、その後のデイサービスの送迎を合わせると1日200キロ近くを私が1人で運転しています。

-笑楽生(えがお)という団体名の意味、込められた想いを教えてください。-

福祉有償運送事業を始めるにあたり、NPO法人にしたほうがやりやすい、ということを聞いて立ち上げました。私のところに障害のある娘が生まれてきましたが、決して悲観することなく笑って楽しく生きていこう、その言葉を並べて「笑楽生(えがお)」という名前ができました。

-すばらしい名前ですよね。笑楽生さんという文字、笑っているみたいですよね。すごくいい名前だなぁと前から思っていました。-

ありがとうございます。この名前、天から降ってきたように決まりましたし、ロゴマークも、障害のある子ども達にのびのびと木のように大きくなってもらいたくて作りました。そして初心忘れることなく、障害のある娘に詠った「我が娘 いつも笑顔でいてくれと 心の中で願う父母ちちはは」という言葉もすぐ出てきました。

-笑楽生(えがお)さんは、青森県で第一号の認定NPO法人です。現在も県内の認定NPO法人は4団体だけです。認定NPO法人は様々な要件を満たして認定を受けますが、その中でも多くの市民に支持されている、ということが非常に重要な基準となります。泉谷さんが認定を受けようと思ったのはどういったことからだったでしょうか。-

この制度(認定NPO法人)が国から青森県に移行されることは知っていました。この制度を受けるためには年間100人以上から寄付をいただかなければいけないわけですが、これを受けることによって、私の後を継いだ長女に金銭面で負担をかけないようにできるんじゃないかなと考え、娘のために親が頑張って取りました。

-寄付ということがハードルになってなかなか認定NPO法人が増えないという現実があると思うのですが、寄付集めに関してはどうですか。-

当法人を全く知らない人が新聞で活動の様子を見て「頑張ってください。」と1万円送ってくれたりするのです。そういう方達に対して「ちゃんとこういう事業に使っています。」と報告する義務があると思うのです。事業報告書と一緒に寄付をお願いする用紙を入れてお送りすると、2ヶ月くらいで80件くらい集まります。今年度も7月29日の時点で、すでに100件に達しています。金額も徐々に増えてきまして、年間120万円くらいの寄付をいただいております。その寄付金で、本来の私達の願いである「子ども達を楽しませること」を忘れることなく使っていると思っています。おかげで当法人を応援する人、利用する人が増えてきています。

-寄付の金額もそうですけれども、それだけ多くの方達が泉谷さんの思いに賛同されてぜひ応援したいという気持ちが、寄付という形になった、思いを形にしたということですね。-

-事業報告書の中でも目を引くのが「立佞武多」です。去年今年と2年連続で参加され、私も拝見したのですが、本当にみなさん笑顔で参加されている様子が印象的でした。立佞武多についてお話をお聞かせください。-

笑楽生の10周年に立佞武多をやることは最初から決めていました。立佞武多製作者の福士裕朗ひろあきさんにその話をした時に、「うちの弟子達に頑張らせるから、ぜひ一緒にやろう。」と言ってくださり、おかげで素晴らしい立佞武多が出来上がりました。最初の年は青森県内全ての養護学校に参加してもらおうと声をかけたところ、約170名のみなさんが参加し喜んでくれました。当初はその一回で終わる予定でした。しかし報告会の時に、森田養護学校を卒業する子ども達が囃子を披露したのですが、演奏した後子ども達が泣いているわけです。その姿を見て、この子供たちのためにもう一回やらなければいけないと思い、今年も参加しました。放課後等デイサービスを行なっていますが、毎週土曜日に子ども達が囃子の練習に集まります。子ども達の「夢」「想い」を壊すことはできません。できれば来年も続けていきたいと思っています。

-活動されている中で苦労したこと、楽しかったこと、嬉しかったこと様々あると思います。そういったエピソードをお聞かせいただければと思います。-

苦労と言っても自分で好きでやった事業ですから、苦労と思っては何もできないですよね。捉え方によって自分の気持ちを変えることは出来ます。自分で思ったことが出来る、そして子ども達が喜ぶ、その姿を見て保護者の方が喜ぶ、その子ども達と保護者が喜ぶ姿を見て、やって良かったなと思います。私は悪いことはすぐ忘れるのです。これからも一緒に楽しんで幸せな気分になっていきたいと思っています。

-NPO法ができて20年経ちNPO法人がずいぶん増えましたが、泉谷さんのように熱い想いで活動されている方もいれば、停滞している団体もあります。その辺りはNPO法人としてのこれからの課題だと思います。-

NPO法人の使い方、という言い方は変かもしれませんが、知らない人がまだたくさんいると思います。せっかくNPO法人を立ち上げても活動されていない団体もあります。勉強することによってNPOの使い方が分かってきますし、良い方に使っていけばNPO法人というのは本当に良いものだと思います。

-泉谷さん達が団体を立ち上げてから11年、NPOや障害者福祉などに関する理解はずいぶん変わってきたと思いますが、まだまだという部分もあります。まだまだ、というのはどういう所で感じますか。-

行政自体に「共生社会の実現」について分かっていない人がまだまだいると思います。その中で私達に何が出来るか、ということを見てもらいたいです。立佞武多もそうですけれど、森田養護学校を卒業した子ども達の「成人を祝う会」を毎年やっています。笑楽生は今日で12周年なんですが、10月20日に行う成人を祝う会も6回目を迎えます。今、オリンピックの後にパラリンピックがあるというのに、障害者の成人式というものに全然目を向けてもらっていません。午前中は一般の成人式、午後は障害のある子ども達の成人式ということもできるはずです。そうすることで保護者の方達も動きやすくなると思います。誰もやらなければ私がやる、という気持ちでいつもやっていますけれども、そういう所に目を向けなければ「共生社会の実現」と言っているだけでは意味が無いと思います。

-泉谷さんが既に実践されている障害のある子ども達の成人式、こういったことを積み重ねていくことで、行政が目を向け協働へのきっかけになれば良いですよね。-

-いろんな組織の形態がある中で、NPO法人として活動されてきた泉谷さんにとってのNPO、NPO活動とはどういうものでしょうか。-

私にとってNPO法人とは、私の夢を実現させてくれたものです。障害のある子ども達へいろんな想いがあるわけですが、地域の人達に理解してもらいたくて一生懸命やってきました。幸せなことに口に出したことは全部実現できているんですよ。

-夢を全て実現している、泉谷さんの今の一番の夢は何ですか。-

最終的には、(障害のある人達が)働きながら住む場所、一つの街を作って死んでいきたいと思っています。生きている人は必ず死ぬのだから、生きているうちに何が出来るかだと思っています。笑楽生として出来ることとしては、子ども達を型にはめないで自由にさせること、もう頭の中では描いているので、ぜひそれを実現できるよう頑張っていきたいと思っています。

-泉谷さん、ありがとうございました。今日はたくさんのお話をお聞かせいただきましてありがとうございました。泉谷さんの思いがたくさんの方に伝わり、共に支え合える社会となりますことを願いながら、今日のインタビューを終了させていただきます。ありがとうございました。-

聞き手/構成 斉藤 雅美
写真/小西 利治

インタビューの様子はYutubeでもお聞きいただけます。

認定特定非営利活動法人笑楽生
理事長 泉谷 和宏
〒037-0201 青森県五所川原市金木町川倉宇田野24番地
電話:0173-54-1671
E-mail: qqpm4nb9k@snow.ocn.ne.jp